夏前に“財布と鞄”を見直す男は、なぜ好かれるのか
――装いを整えるということは、生き方を整えること
執筆:高橋 鷹人(ラグジュアリー観察家)
◆6月になると、決まってやることがある
6月になると、私は毎年決まって、自分の財布と鞄の手入れをする。
理由は単純で、「暑くなる前に整えておきたい」からだ。
汗をかく季節にくたびれた財布を使っていると、どこか自分までだらしなくなる気がしてしまう。
これは性格かもしれないが、持ち物が整っていると、気持ちも落ち着く。
特に、財布と鞄は“外に出る自分”をつくる道具だと私は思っている。
◆軽装になる季節、“持ち物”の存在感が増す
ジャケットを脱ぎ、ネクタイを外す季節。
服の情報量が減るぶん、財布や鞄が目に留まる機会はぐっと増える。
そんな時、持ち物に“締まり”があると、装い全体に芯が通る。
逆に、くたびれた財布や、型崩れした鞄がひとつあるだけで、全体の印象が緩んでしまう。
本物の革製品――とりわけクロコダイルのような素材は、そういう場面でこそ静かに光る。
派手ではない。でも、質感が「丁寧に扱われている」ことを語るのだ。
◆財布や鞄に、性格がにじむ
以前、知人の経営者にこんなことを言われた。
「初対面の人と会う時は、鞄と財布を見るようにしてる。」
意外と多くの人が、無意識にそうしているのかもしれない。
財布の中身が整っているか。レシートが溜まっていないか。
鞄が無駄に膨らんでいないか。型崩れしていないか。
そんな細かな部分に、“その人の生活”が表れてしまう。
きっと皆、清潔感というより、“余裕”を見ているのだと思う。
◆本物を使うということは、「整える」ということ
クロコダイルの革は、手を入れるほど深みが増す。
柔らかさ、艶、しなやかさ。
毎日触るものだからこそ、その違いがはっきりと出てくる。
一見、無骨で重厚な素材だが、実はとても繊細なレザーでもある。
だからこそ、使う人の手の癖、性格、時間の流れまで受け止めてくれる。
“本物を使う”とは、単に高級なものを持つということではない。
自分を整えるための道具を、自分で選び、育てていくことだと思っている。
◆最後に ― 夏前は「装いを仕切り直す」いい時期
夏という季節は、環境も人間関係も変化が多い。
ふとした会食、久しぶりの再会、少しだけ特別な出張…。
そうしたタイミングの中で、自分の身のまわりが“きちんと整っている”と、自然と背筋が伸びる。
財布や鞄は、単なる持ち物ではない。
「こうありたい」という自分の姿勢を、毎日手に持っているようなものだ。
6月。
衣替えと同じように、自分の“外に出る道具”を見直してみるのも、悪くないかもしれない。
次回予告:「“ものを贈る”という文化は、どこから来たのか。」――本物を贈るとき、男が知っておきたい作法